2002-5-5 『光の旅人』 K-PAX

見に行った劇場がシネコンだったからなのかもしれないけど、ゴールデンウイークで盛り上がる話題作の列の長さに驚きながら、ロビーを通り抜け場内へ入ると、拍子抜けするほど客の入りが少なくて逆の意味でビックリ。俺にとっては久し振りのヒューマン映画で、ちょっとファンタジックな面もあって結構満足度は高く、見に行ってよかったと思えた。

全体の流れは、主人公のK-PAX星人のプロート/ケビン・スペイシーと彼を診断する精神科医のマーク・パウエル/ジェフ・ブリッジズの中年から初老にかけての男性という以外は全く正反対の二人の会話から物語りは作られていく。

サングラスを掛け無機質な表情を見せるプロートと、何時も口を真一文字に結んでいるパウエル。たったそれだけでも二人の演技は味わい深いものだったけどサングラスを外した時に見せるプロートの目の優しさ、真実を突き止めようとする時のパウエルの目の動きの鋭さに「この二人、うまい!」と思った瞬間、あっという間に映画の中に吸い込まれていった。全編を通してスクリーンに溢れる光の優しさと美しさもそれに拍車を掛けていたように思える。

入院患者たちはプロートを一目見るなり自分を救いに来たと敏感に感じ取る。青い鳥を見付け出せた事によって、内に向いてた心が、自然と外に向かって開かれるようになり、無意識のうちに患者自身が変わっていく。殺風景だった談話室が日に日に人で溢れ出し、窓や壁に色が塗られ、絵が飾られるようになる。テーブルの上にも様々な物が置かれ、生き生きとした空間へと変わっていき、K-PAX星への旅立ちを待ち望み、夢を語らいはじめる。そして遂には、この地球上で本当の居場所を自分自身で見つけ出せるようになる。

北へ旅する為、3日間行方不明になっていたプロートが、早朝木の上に現れパウエルと再会するシーンを見た時は、「ははは」って心の中で笑ってしまったけどその後気付いたよ。あの時のプロートはパウエルにとっての青い鳥だったんだと。

それからはパウエルの心の中に何時でもプロートの存在があった。パウエルも自分の内面にのみ向けられていた心が自然と外側に向かって開きはじめる。妻と娘を大切に思うようになり、もう一人の家族とも向き合える事が出来た。パウエルも救われた一人となる。そして真実を捜すうちに、助けを求めている人物がもう一人いると気付く。それはプロートであり、一体となっているロバート・ポーターだった。このあたりの作り込みは凄いです。じっと集中して見てたもの。

天文学者まで驚かせてしまうプロートは「本当にK-PAX星人なのか?」ばかりを考えていた。映画もそれを主題に進んでいたからね。でも、ここまで物語が進んで異星人じゃ無いなんて事考えられないから、プロートは確かにK-PAX星人で、どんな風に星へ帰るのか?、その時プロートと一体だったロバート・ポーターはどうなるんだろう?そしてどうやってこの物語に決着をつけるのか?こっちの方が気になりだしたんだ。

運命の旅立ちの瞬間もビックリさせる仕掛けも無く、スクリーン一杯に光が射し込んで来るという、ちょっと物足りない感じはあったけど、時間ギリギリに駆け込んで来るジェフ・ブリッジズの演技にドキドキもしたし、誰もが無理なく受け入れられるシーンに作られていてちょっと安心。エンディングでロバート・ポーターの車椅子を押すマーク・パウエルの姿を見て「予定調和かな?」と思いながらも「良かった、良かった」思う俺がいた。プロートが地球上に存在した5年間は情報収集の時間だと語られていたけど、一体となっている友人のロバート・ポーターを救い出す為の時間でもあったんだよね。

この映画の様に、これ位中心となる役柄の人物像や人間関係をしっかり作り込んでいると、見てる方も作品に集中出来るし感銘も受ける。そして見終わった後の心の充実感も満たされるよね。

ここからはちょっと気になった事と感心した事をいくつか。

家族という概念が全く無いK-PAX星人が家族という絆に対して、何故あれ程までに深い興味と関心を示し、接した人々が納得してしまうほどの理解と答えを出せたんだろう?。もしかしたらプロートがロバート・ポーターの気持ちを代弁したのかな。

予告編・TVCM・雑誌等では『K-PAX星人はバナナを丸ごと食べ、犬と会話し・・・』なんて事をメインに扱っていたよね。映画を見れば一目瞭然なんだけど、かなり視点がずれてるんじゃないかな。もっと主眼をしっかりと持って宣伝して欲しい。

プロートが若くて二枚目な青年という設定じゃないのが何よりも良かった。頭が薄く、うだつが上がらなさそうな中年オヤジだったからこそ、これだけ深みのある映画に仕上がったと思う。サントラがたった2曲しか使われてない事に気付いたのはエンドロールを見た時だった。普段は余り気にもしない効果音がこれ程までに心に染みて来るものかと最後の最後に思ったよ。

ロバート・ポーターの学生時代の写真として映されていたのはもしかしてケビン・スペイシー本人の若い時の写真だったのかな。何故か大笑いしてしまいました。

今回は余り突っ込めるところが無くて、誉めるところばかりになっちゃった。この映画はすごくレベルの高い映画だと思う。DVDが発売されたらきっと買うんだろうな。

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