2003-1-10 『K-19』 THE WIDOWMAKER

しばらく続いた極寒の日々も少し緩んで春先のような気候の中、何時もの映画館に足を運んだ。潜水艦物は幾つか見てるし、そんなに外れも無い。この映画『K-19』もハリソン・フォードとリーアム・ニースンの二人が共演してるし、安心した気分で上映開始の時間を待った。

開始直後からいきなり緊張感溢れるシーンの連続で一気に映画に引き込まれていく。思った通りの硬派で見がいがありそうだ。米ソの冷戦の最中、急遽建造されたソ連の原潜『K-19』は数々の不備と不吉な予感をはらみながらミサイル発射テストと威事行動の為、北の海へと出航する。

ここらでチラホラと「事実を映画化したにしては、ちょいと演出ぽいものを感じるぞ」と思うことがあった。米国に対して一気に優勢に立つための国家プロジェクトにしては、お粗末な感じがした。トップに立つものが決定した事を、その下にいる者たちが自らの立身出世や保身の為にプロジェクトを利用し現場に無理難題を押し付ける。その結果、工期が目一杯となり余裕が無いギリギリ状態になり、不眠不休で工事を行うこととなる。故にそのハードさによるストレスで酒にすがる事も有ったかもしれないし、どこかで間違いが起こりオーダーとは違う品物が届けられる事も有ったかもしれないが、そのヘルプが余りにも拍子抜け。実戦経験が皆無で学校出たてが原子炉担当士に任命される。海軍なのに船酔いするドクターなんてちょっとね。

不思議に思った事がもう1つあるんだ。原潜を造るのは造船技師なのは当然だけど、船内の装備を備え付けるのは乗組員がやるのかい?数々の装置を操るのは乗組員なのは分かるけど備え付けまでやるなんて・・・。出航直前のシュミレーションで失態をみせた艦長ミハイル・ボレーニン/リーアム・ニースンが副艦長に降格されて、そのまま船に残るなんて事はあるのかな?これらの事が事実とはどうしても思えないんだ。でもそれらが無いと、この映画の面白さがみんな無くなってしまうけどね。

コード・ネームの『WIDOWMAKER』もはじめは米国がつけたものだと思っていたんだ。でも米国がつけるコード・ネームは『ノベンバー級』や『ヤンキー級』などだから、やっぱり乗組員がつけたんだね。

新任の艦長アレクセイ・ボストリコフ/ハリソン・フォードは船を極限状態の中に置き、休む時間など与えず乗組員を鍛え上げる。部下の要求や意見などを一括して却下する厳格で冷徹な役柄。やり過ぎかなと思えるほどの演技を演じて見せる。

最大潜水深度から一気に浮上して氷を割り海面に現れるシーンは確かに迫力はあるけどいただけない。だって無理なんだもん。まず船首に付けられてるソナーは大破するだろうし、セイル(潜水艦の一番高い所)も大きなダメージを受けてその後の航海は不可能になると思う。ミサイル発射に成功した後の氷上でサッカーを楽しむカットはその後何が起こるかを知っている観客にとっては感慨深いシーンになっていた。

原子炉事故が起きる事を予感させるカットも、もう少し煮詰めて欲しかったな。冷却ポンプが予想以上に電気を喰っている事に気付くのが、何故かいつもバベル・ロトコフ/クリスチャン・カマルゴだけ。それもメーターを“コンコン”と叩くと針が低い数値を指す。余りにも古すぎる演出だと思う。原子炉のバルブやパイプから小さな小さな泡が吹き出して、それが少しずつ大きくなるようなカットが有っても良かったと思う。原子炉にケミカルスーツで入り被爆してしまうシーンは余りにも衝撃的で余りにも残酷。見ていて胸が張り裂けそうになったよ。実際の現場では映画で描かれた以上の悲しみが有り、一人の人間としての苦しみや祖国を守る軍人としての葛藤が渦巻いていたんだと思う。

その彼らを“英雄(ヒーロー)”の一言で言い切ってしまった事がすごく不満なんだ。確かに結果的に彼らは世界を救ったかもしれない。しかし、あの場所に居たら、そんな事考えるかな? そんな大きな考えを持つ事が出来るかな? それよりも自分の家族や肉親と同等の乗組員を救いたい。その気持ちの方が大きかったと思う。だから“英雄(ヒーロー)”と言われた事にちょっと引っかかりを感じたんだ。彼らは大国のエゴの中で命を失ってしまった被害者でも有るんだ。その辺りをもっとはっきりと描かないから、何の為に、この題材を選んだのか、今一歩伝わって来ないんだよね。

映画として見る分にはそれなりに面白かったよ。でも世の中に知られることなく時の中に埋もれてしまった事に光を当てる為だとしたら、もう少し頑張って欲しかった。ハリソン・フォードとリーアム・ニースンの演技力に頼りすぎの感も有るしね。でも二人とも似た感じの演技をするんだよね。ほんと惜しい映画。あと一歩で名作になったかもしれない。この映画を見た実際の乗組員が『この映画には、真実は二つしかない」と言ったらしい。その二つの真実とは何なんだろう? もしかして原子炉事故が起こった事と米軍に救助されなかった事かな。

またもや字幕スーパーで気になった事が。軍関係の言葉などを訳すのは専門的な知識が必要で、監修が付いたのは当然だと思う。ある程度の専門用語を使う事でリアリティー感が増し映画としても一本芯が入る事は確か。でも『宜候(ようそろ)』は無いだろう。それ程の専門的知識は持っていない観客に分かるように訳して欲しいよ。『宜候(ようそろ)』は極め付きの専門用語でしょうが。パンフレットに監修の元潜水艦艦長のコラムで『宜候(ようそろ)』は今でも海上自衛隊で使われていると自慢気に書いてあったけど、勘違いしてるようにしか思えないよ。海上自衛隊で『そのまま進め』を『宜候(ようそろ)』と言うのをソ連海軍を舞台とした映画の中でそのまま『宜候(ようそろ)』を使うのは変だと思わないのかな。『そのまま進め』で良いと思うけど。『面舵』『取り舵』にしてもそう。スクリーンを見て左右どちらに曲ったのか確認しなきゃ分からないなんて見てて疲れる。字幕はもっと直感的に分かるようにして欲しい。

2度目の原子炉の事故が発生した時、海に飛び込んで逃げようとした乗組員はその後どうなったんだろう? 米軍に救出されたのか、溺れたのか。すごく気になるんだけど。

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