2004-06-20 『トロイ』 TROY

パンフレット「今度の休みに『トロイ』を観に行こうよ」と、俺と何時も一緒にいる『ブラッド・ピット大好き』な人が聞いてきた。『行くのは全然OKだけど、日本武道館で『生ブラピ』を見た後に、そこでの試写会を見たんだろう?」と答えると、「実はおまけにつられて、ペア・チケットを、もう買ってある」と言う。「いいよ、いつものシネ・コンだろ?」 「そこじゃ使えないの」 「ゲゲ!並ぶのか」

選挙カーからの演説が五月蝿い有楽町の、映画館のエレベーターを出ると、予想以上の人が並んでる。列の流れは階段の方に続いてるじゃないか。エレベーターで登って来て、並ぶ為に階段を下るとは! 何か変だ。俺らの前に並んでる女の子が「まるで東京ディズニー・ランドみたいだね」と言ってるよ。そろそろ映画館側も考えて欲しいよな。開演前に並ぶのは無駄な労力と時間の無駄遣いとしか思えないよ。とりあえず座席は確保したが、前から3列目だ。厳しいものがあるぞ。でもまあ、スクリーンの正面だからまだマシな方かな。おい、座席にドリンク・ホルダーが付いてないぞ。


いきなりのサービス・カットだ!アキレス/ブラッド・ピットの裸だ。尻だ。ツカミはOKだっ。何だ、そりゃ。歴史スペクタルのコスプレ物だから、もっと重々しく話が進むのかと思っていら、アガメムノンとアキレスの確執を生んだエピソードや、パリスとヘレンの恋物語を一通り説明したかと思ったら、いきなりトロイ戦争へ入っていくテンポの良さにビックリすると同時に唖然ともした。

 

1.トロイ戦争は「人口が増えた人間を減らすのだ」と、大神ゼウスの気まぐれのような考えからはじまった事。

2.第二王子のパリスは生まれる直前に「この子は、トロイを滅ぼす」と予言を受けたが故に、奴隷に命じ山中に捨てられた。しかし牝熊が乳を与えて生を長らえた。不便に思った奴隷が連れ帰り、『パリス』と名付けられて育てられた事。

3.羊飼いであったパリスは、ゼウスの妻ヘラ、知恵の女神アテネ、愛の女神アフロディナの三女神の中で一番の美人は誰かという審判を任され、アフロディナを選ぶ。その報酬が実は絶世の美女でスパルタの王妃ヘレンだった事。

4.トロイの中で一番の勇者を決める競技会に出場し、決勝で実の兄のヘクトルを破り、実はパリスが王子だった事が判明した事。

以上のトロイ戦争勃発前のエピソードはバッサリと、見事なまでにカットされてたね。でもそれで正解かもよ。こうやって書いてるだけでもまだるっこしいからね。


エーゲ海を見渡す限りの帆船で埋め尽くし、東へ進むギリシア軍のカットを見た時は、「C.G.はこう使うもんだな」と思ってしまった。そのC.G.の見事さは戦いのシーンでも際立っていたと思う。剣が肉を断ち、血飛沫が舞い、矢が体に突き刺さる。全てが肉弾戦・白兵戦で有るが為に、気持ちが悪くなるほどの臨場感があったからね。

膨大な数の帆船が上陸したわりには、海辺でのシーンでは船の数が少なかったよね。浜辺が延々と続いてて、船がグルっと国を囲んでたりして・・・そんな事無いよね。


パリス/オーランド・ブルームとメネラオス/ブレンダン・グリーソンの一騎討ちで、ヘクトル/エリック・バナがメネラオスを殺してしまうカットを見て、「あれー。これ話が違うぞ」と思った。メネラオスは戦後、ヘレンを連れてスパルタカスへ帰るはず。そしてパトロクロスは従兄弟という設定だったけど、無二の親友じゃなかったけ?

これはかなり脚色して話を変えてるようだ。そして話のテンポが良い理由も分かった。ギリシャ神が誰一人(神?)として登場しないからなんだ。トロイ戦争は神々の戦いでもあるので、片方が不利になると、すぐ手助けに入るからなかなか話が進まないんだよね。


こんな風に書くと、『イリアス』と『オデッセイア』に詳しそうだけど、それらを読んだ事は無いんだ。俺は悲しい位の活字中毒者で、読む文庫が無くなった時に、阿刀田 高の『ギリシア神話を知っていますか』と『ホメロスを楽しむために』(新潮社刊)の2冊を何度も読み返していたからなんだよね。活字中毒も少しは役立つもんだ。

それにしても、やたらと言っていい位、ブラッド・ピットのサービス・カットが登場するなぁ。そして絶世の美女ヘレンとアンドロマケは、俺の感覚からするとそれ程の美女とは思えないなぁ・・・。これはあくまでも俺の感覚ですので・・・。


話はどんどこ進んで、トロイ戦争のクライマックスの1つのアキレスとヘクトルの一騎討ちの場面になる。余りにテンポが良すぎるから人の内面の欲望や葛藤を描くカットがノンビリしすぎる様に感じる位だ。

トロイの城壁の前に立ち大音声で「ヘクトール。ヘクトール」とアキレスが叫ぶシーンは心が震えるほどの迫力があったよね。もしかしてブラッド・ピットって演技が上手いかも。アキレスがヘクトルの屍を馬車で引き摺っていくカットは、アキレスが何故あんな行為を起こしたのか、伏線も理由も全く描いてないから、アキレスの残虐性を強調したかったのかなと思ってしまう。

ヘクトルに倒されたパトロクロスの屍が、トロイ側によって辱めを受けそうになったので、ギリシア側は必死に戦い死骸は取り戻したが、ヘクトルはアキレスの武具を身に着けて、これ見よがしに一騎討ちに臨んだからアキレスはあんな行為に出たんだよね。

でもそれを劇中でハッキリと表現すると、『傷つけられた尊厳は報復によって取り戻しても良い』みたいに受け取られる心配があるし、今の世界情勢を考えると、軽々しく扱う事は出来なかったのかもしれない。それにしても痛ましいカットだったことは確かだ。戦争というのは人が人で無くなる事だからね。


戦いが膠着をみせ、ギリシア、トロイ共に厭世観が広がっていく。なんせ10年間も戦っているんだもん。オデッセウス/ショーン・ビーンが木馬の作戦を考え付き、船の残骸から『トロイの木馬』を作り上げる。

ウォルフガング・ペーターゼンはそうは考えてないかもしれないが、メネラオスが死んじゃった辺りから、SF風に言うとパラレル・ワールドのトロイ戦争になったようだ。未だアキレスは死んでないしパリスも生きてる。ここまで観てきて思ったのは、“トロイが滅びる時にアキレスとパリスが生きてる方が確実に物語として面白い”と言う事だ。

木馬のアイデアを思いつく時にもう少し捻りが欲しかった。神々を登場させずにヒューマニズム(人間愛ではなくて人間主義だよ)を根幹として描くと、こういう風になるのはしょうがない事なのかもしれない。

スクリーンに映し出される『トロイの木馬』は禍禍しく、何とも言い難い黒いオーラが出ていたよね。この先訪れるトロイの滅亡を十分に予感させる物だった。


木馬がトロイ城内に運ばれ、その夜の内にトロイが陥落する事は余りにも有名なエピソードだから、どういう風に描くのか楽しみにしていたんだが、何故にアキレスはブリセウスの元へ急ぎ駆けつけようとしたのか? ギリシア兵から守るためか?憎きアガメムノンの手に落ちるのを阻止する為か? なまじ母であり女神でもあるテティスの“トロイ戦争に赴けば名誉と引き替えに命をなくす”という神託を示したもんだから、俺には意味がつかめないカットになってるんだ。神託なんぞ出さずにヒューマニズムで突き通した方が、人の命の尊さと戦争の悲惨さのコントラストが際だったのにと思うけど。

パリスが弓でアキレスを倒すシーンは、弓の神アポロンの御加護で放った矢がアキレスに刺さったわけなんだけど、『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラスにダブってしまうよね。見た人の殆んどがそう思ったと思う。それはそれとして、オーランド・ブルームは女好きの王子の役を見事に演じてたね。

そしてこのシーンでアガメムノンが倒されるのは何度目かのビックリだ。アガメムノンは戦いの後・・・もういいか。これはウォルフガング・ペーターゼンのオリジナルの『トロイ戦争』なんだからね。


パリスが名も無き町民に『トロイの剣』を渡して「脱出する人々を守れ、そしてトロイを再建しろ」と言うカットは違うんじゃないか。『トロイの剣』の意味が無いじゃないか! 王族の1人に渡すとか、パリス自身が剣を手にして敵と戦う方が、もっともっと映画が盛り上がったと思うけどなぁ。

プリアモス王を演じるピーター・オトゥールは年取ったなぁ。出演者の中じゃ一番の演技を見せていたね。でも劇中で何度か目を見開いて驚く顔を見ていると、藤村俊二に似てる気がしてならなかったよ(by 俺と何時も一緒にいる『ブラッド・ピット大好き』な人)。歴史物ではあるけど立ち振る舞いは現代物と変わらない演技を全員がみせていたね。英語のセリフは分かんないけど、多分現代劇風なんだろうな。


有名な神話を題材にし、その神話の中に散りばめられている神々の行動を省いて人間を中心とした話を作り上げるのは苦労を強いられたことだと思う。俺は生半可にギリシア神話を知っていたけど、そこそこ面白かったよ。逆に知らない方がもっと面白かったかもしれない。

それとブラッド・ピットは見事に筋肉を鍛え上げ、現代に勇者アキレスを再現してみせたね。筋トレで上半身は筋肉が付いたけど、どうしても太股の筋肉が太くならなくて、最終手段でC.G.を使って太股の筋肉を盛り上げたと聞いたけど本当かい?


一応、映画とギリシア神話の主な登場人物設定の違いを書き出してみました。

 

主な登場人物 映画『トロイ』 ギリシア神話
アキレス トロイの木馬に乗って城内へ入るが、パリスに殺される。 トロイの木馬が作られる前にパリスに殺される。
ヘクトル アキレスに殺される。 アキレスに殺される。
パリス 最後まで登場するが、生死は不明。 アキレスを倒した戦いで死亡する。
パトロクロス アキレスの甥。ヘクトルに殺される。 アキレスの無二の親友。ヘクトルに殺される。
アガメムノン ブリセウスに殺される。 トロイ戦争の後、無事、国に帰るが、王妃に殺される。
メネラオス ヘクトルに殺される。 トロイ戦争の後、念願通りヘレネを連れて国へ帰る。
オデッセウス 生き残る トロイ戦争の後、神の怒りに触れ国へ帰るのに10年掛かる。

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