グルグル回る犬

会社帰りにバイクで信号待ちをしていると、左の方から強い視線を感じた。そちらの方を振り向いても誰も俺の方は見ていない。その代わりに1匹の犬が俺をじっと見ていた。その犬は会社近くの自転車屋で何年も前から飼われている犬で、俺は何度も触ったり撫でたりした事がある結構可愛い犬。でも俺の事は特別覚えてる事は無いみたいだ。

その犬は変わった癖があるんだ。店の前をバイクや車が通ると“ワンワン”と吠えながらグルグルとその場を回るんだ。全てのバイクや車に反応するんじゃなくて、音がうるさいとその行動を見せるようだ。

犬は俺の方を先程からじっと見ている。尻尾は水平にピンと伸び、左右に“ブン・ブン”と振られている。その姿を見ているうちに頭の中に「もしかしてあの犬は車やバイクが嫌いで吠えてるんじゃなくて、一緒に走りたいんじゃないか」と言う考えが浮かんだ。尻尾を左右に強く振っているし俺の方をじっと見る目は『早く走って』と訴えている様にも思えた。その考えを確かめる為、軽く“ヴォン”とアクセルを吹かしてみた。その犬は一瞬体を“ブルッ”と震わせて“ワン”と鳴いた。「どうやら正解らしいぞ」次は足で地面を蹴りバイクを少し前へ動かしてみた。今度は“ウォン”と鳴き上下に飛び跳ねた。「やっぱり、あの犬は競争してるつもりなんだ。そんな犬以前にTVで見たぞ」なんて思いながら何度か繰り返していると、犬は『辛抱たまらん』とばかりに“ワンワン”と何度も吠えはじめた。その間飼い主のオジさんはそんな事は何時もの事らしく無関心で横断歩道の信号が変わるのをボーッと待っているだけだった。

遂に信号が青になる。バイクのギアを“ガチャン”とローに入れると犬は一層力強く尻尾を振り、体を小刻みに動かしだす。クラッチを繋ぎアクセルを開け“ヴォーン”とスタートすると、解き放たれたかの様に“ワン・ワン・ワン・ワン・ワン”と吠えながら左回転をはじめた。「やっぱり競争してる。店の前では左から右へ車やバイクが通るから右回転だったもんな」俺は犬の鳴き声を聞きながら交差点を右折して帰途へ着いた。

次に会う時は今までより少し優しく撫でてやれそうだ。動物は可愛くて不思議だ。

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